家ではお調子者で、ふざけて笑わせてくれるような子。でも、外に出るとまるで別人。学校には行きたがらず、友達もいない様子。
小学校時代、うちの息子は、教室の隅で静かに本を読んでいることが多く、お弁当も「食べるタイミングがわからなかった」と一口も手をつけずに持ち帰ってきたことが何度もありました。
担任の先生に相談しても「いじめではなく、そういうキャラとして扱われている」とのこと。
でも、話しかけても反応がなければ、次第に周囲も話しかけなくなります。気づけば孤立してしまっていた——そんな姿に胸が痛みました。
「どうして気づいてあげられなかったんだろう」「うちの子に何が起きているんだろう」——そう思いながら、後悔の気持ちで写真フォルダを遡っても、何かのサインは見つからず。ただただ笑っている写真ばかりが映っていました。
この記事では、そんなわが子の経験を通して「場面緘黙症(ばめんかんもくしょう)」という状態について知り、親として気づけること・できることを一緒に考えていきたいと思います。
場面緘黙症とは?
家庭では話せるのに、外では話せない子どもたち
場面緘黙症は、不安障害の一種です。家庭などの「安心できる環境」では普通に話せるのに、学校や人前などの「特定の場面」では、極度の緊張や不安から声を出せなくなる状態を指します。
決して「話さない」のではなく、「話したいけど話せない」。本人にとってはとても辛い状態ですが、見た目ではなかなか分かりにくいため、周囲の理解が得られづらいという特徴があります。
こうした子どもたちは、話さないことで周囲に「無口な子」「内気な子」と誤解されがちですが、家ではよくしゃべるというケースが多く、ギャップの大きさに親自身も戸惑うことがあります。
人見知り?性格?と誤解されやすい理由
場面緘黙症は、本人の意思ではどうにもできない「症状」です。しかし、多くの場合は「性格の問題」「恥ずかしがり屋」として見過ごされてしまいます。
本人も「話さなきゃいけない」とわかっていても、声が出ない。話しかけられても、返せずにただうつむいてしまう。その結果、クラスの中では“そういう子”というキャラクターが定着してしまうのです。
そして周囲の子どもたちは、「話しかけても返事がないから」と距離を置くようになり、本人はさらに話す機会を失っていきます。話すことへのプレッシャーが積もるほど、症状は悪化していきます。
この悪循環を断ち切るためには、まず親が「これは性格ではなく、心のSOSかもしれない」と気づくことが第一歩になります。
自分の子どもがそうだったと気づいたとき
うちの子は、家では本当に明るくて、よくしゃべるし、変なダンスで笑わせてくるようなお調子者です。
だから、外で声を出せないなんて、最初はまったく思ってもいませんでした。
でも、学校ではまったく違う様子だったようです。
先生からは「いつも本を読んでいますよ」と言われ、給食も「食べるタイミングがつかめなかったのか、お弁当を一口も食べずに持ち帰ってきた日もありました」と報告を受けました。
仲間外れにされているのでは?と思い、担任に相談したこともあります。
でも返ってきた答えは、「いえ、そうではありません。そういう“喋らない子”というキャラが定着しているようです」というものでした。
キャラが定着する——つまり、本人が望まずとも、「そういう子」として扱われてしまっているということ。
話しかけても返事がなければ、次第に誰も話しかけてこなくなる。それは、本人にとってどれだけ孤独なことだったかと思うと、胸が締め付けられるような思いでした。
決定的だったのは、修学旅行の班決めであぶれてしまったときです。
それでも息子は、「行きたくない」とは言わず、きちんと参加して帰ってきました。「どうだった?」と聞いたら、「楽しかったよ」と笑っていたけど、それが本心だったのか、それとも私を心配させまいとしたのかはわかりません。
夜、Googleフォトで息子が小さかった頃の写真を見返してみました。
赤ちゃんの頃、幼稚園の頃、たくさんの笑顔。でも「いつからこの子はそんな問題を抱えるようになったんだろう?」と考えても、明確な境界は見つかりません。
コロナ禍で、学校のイベントは中止ばかり。運動会も学芸会も、満足にできなかった。
だからせめて思い出を作ってあげようと、同級生を2人誘って、5年生まで毎年キャンプに連れて行っていました。
その時だけは、自然の中で笑顔を見せてくれていたし、「また行きたい」と言ってくれた。その言葉に、少し安心していたのも事実です。
でも今にして思えば、あのときからすでに、「学校」という場が息子にとってどれだけ負荷のある場所だったのか、少しずつ気づいていくべきだったのかもしれません。
親として、気づいてあげられなかったことが悔しい。
でも、過去には戻れないからこそ、今ここから、何ができるかを考えたいと思います。
親としての後悔と向き合い方
「もっと早く気づいてあげていれば」「何かしてやれたんじゃないか」
そう思う気持ちは、親なら誰でも抱くと思います。
私自身、息子のことを思うたびに、胸の奥がチクチク痛むことがあります。
学校で声を出せなかったことも、友達と自然に接することができなかったことも、
「うちの子はこういう子」とどこかで思い込んでしまっていた。
“家で明るく過ごしているから大丈夫だろう”という思いが、見えないSOSを見逃していたのかもしれません。
でも、どんなに悔いても、時間は戻りません。
だからこそ、「これからどうするか」を見つめ直すことが、今できる最善なのだと思います。
まず、自分を責めすぎないこと。
完璧な親なんていませんし、誰もが試行錯誤しながら子育てをしています。
子どもに問題があったからといって、それが“親のせい”だと決めつける必要はありません。
大切なのは、「今、目の前の子どもとどう向き合うか」です。
息子が家で安心していられるなら、それは一つの大きな支えです。
その居場所を守ること、少しずつ広げていくことが、親にできる大事な役割だと思うのです。
また、無理に「話せるようにさせる」ことが目標ではありません。
「話さなくても、受け入れてもらえる」という安心感を持つことで、本人の中に少しずつ変化が芽生えていくこともあります。
もし必要であれば、学校のスクールカウンセラーや、児童精神科などの専門家に相談するのも選択肢の一つです。
親だけで抱え込まずに、「ちょっと聞いてほしい」と思ったときに、気軽に話せる場所を見つけることも、すごく大事なステップです。
私は今でも、時々「あのときこうしていれば」と思うことがあります。
でも、息子が家で笑ってくれている姿を見ると、少しずつでも一緒に進んでいける気がするのです。
親にできるのは、子どもの隣に立ち続けること。そして、「あなたはあなたのままで大丈夫だよ」と、何度でも伝えていくことなのだと思います。
できること・支え方・相談先
場面緘黙症に対して、親が「治そう」と焦る必要はありません。
大切なのは、「話せないこと」を否定せず、理解する姿勢を持つことです。
子どもにとって、何よりも必要なのは「安心できる環境」です。
家の中で自由に話せる、ふざけられる、その空気がまずは守るべきベースになります。
そして、外の世界に少しずつ安心を広げていくサポートができれば、それが子どもの力になります。
無理に話させようとしない
「ちゃんと返事しなさい」「あいさつくらいしなきゃダメ」
そんな声かけは、実はプレッシャーになることがあります。
本人も「話したい」という気持ちを持っているけれど、緊張や不安で身体が固まり、声が出せないことも多いのです。
だからこそ、親としては「話さなくてもいいよ」「ゆっくりでいいんだよ」と伝えることが、心の支えになります。
コミュニケーションの代替手段を用意する
話せなくても、意思を伝える手段はあります。
例えば、気持ちをカードで示せる「きもちカード」や、表情シートなど。
家庭や学校で使えば、「今こう感じてるんだな」と理解し合うきっかけになります。
また、日記形式で子どもが自由に書けるノートを用意し、「今日こんなことあった」と文字で気持ちを伝える習慣を持つのも一つの方法です。
スクールカウンセラーや専門機関に相談する
「このままで大丈夫なんだろうか?」
そんな不安を抱えたら、一人で悩まずに相談できる先を持っておきましょう。
学校にはスクールカウンセラーが常駐している場合がありますし、自治体によっては「子ども相談室」や「発達支援センター」などが相談窓口になっています。
また、心療内科や小児精神科では、場面緘黙症を含む不安障害に対して専門的なサポートを受けられます。
診断が出ることで、学校側に「配慮が必要な状態」として共有され、対応も変わってくることがあります。
小さな「できた」を一緒に喜ぶ
「今日は先生にプリント渡せたね」「目を見てうなずけたね」
そんな小さな変化に気づいて、言葉にしてあげることが、子どもの自己肯定感を育てます。
話せるようになるかどうかを目標にするのではなく、子どもが「ここにいていいんだ」と思える安心感を、親子で少しずつ育てていくことが、何よりの支援になります。
Amazonで買えるおすすめ支援グッズ
場面緘黙症の子どもにとって、「話さずに気持ちを伝える手段」があると、安心感がまるで違います。
ここでは、家庭や学校でも使いやすい“気持ちの見える化”グッズをご紹介します。
▶ きもちのカード(Amazon)
話せなくても「今こんな気持ち」と伝えられる、親子で使えるコミュニケーションツール。
- 40種類以上の感情が、わかりやすいイラストで表現
- 言葉にするのが苦手な子も、カードを選ぶだけで気持ちを伝えられる
- 学校の先生や兄弟姉妹とのやりとりにも活用可能
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「今日はこのカードの気持ちだった」など、1日の終わりに家族で共有すれば、自然なコミュニケーションのきっかけになります。
親の一言では気づきにくい子どもの気持ちも、カードを通せば「あ、そうだったんだ」とわかることが増えます。
このような支援グッズを日常に取り入れることで、子どもが安心して気持ちを出せる環境が整います。
「話す」以外にも表現方法があるんだよ、ということを、少しずつ伝えていけるといいですね。
まとめ:話せなくても、伝えたい気持ちはきっとある
「どうしてもっと早く気づいてあげられなかったんだろう」
この思いは、親なら誰でも抱く後悔かもしれません。
でも、大切なのは“今”気づいたことです。
子どもが家ではよく話すのに、外ではまったく話せない。
その状態は、単なる性格や恥ずかしがり屋ではなく、「場面緘黙症」という心の不安からくるものかもしれません。
この障害の厄介なところは、「話せない=困っている」と表には見えにくいこと。
周囲から「静かな子」「無口な子」と認識されて終わってしまいがちです。
でも実は、本人は「話したいのに話せない」「返事をしたいのにできない」と、心の中で葛藤していることもあります。
そのことをまず知ることが、支援の第一歩です。
親にできることは、完璧なサポートではありません。
子どもが「ここにいていい」と思える居場所を守り、少しずつでも「外の世界にも安心できる場所がある」と思えるように寄り添っていくことです。
無理に話させようとせず、代わりにカードや日記など、
「声以外で伝える手段」を用意してあげるのも立派な支援です。
もし不安が強いようであれば、スクールカウンセラーや医療機関など、専門家の力を借りることも選択肢に入れてみてください。
子どもは、話せなくても、きっとたくさんの気持ちを持っています。
その「気持ち」を受け止める大人がそばにいれば、時間はかかっても、自分のペースで少しずつ前に進んでいけます。
どうか、焦らず、責めず、一緒に歩いてあげてください。
今日読んでくださったあなたが、その一歩を踏み出すきっかけになったなら嬉しく思います。
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